「遍路道の岬」
遍路道が通る岬は太平洋、瀬戸内海に面していくつかあるが、ここでは景観の良い太平洋岸の三つを描いた。
(1―伏越の鼻)

10月19日、徳島県の海部(かいふ)の宿を出て、高知県に入り10キロ、東洋町を過ぎて、野根川の大橋を渡り坂を上ると、昔の歌にも詠まれている伏越の鼻だ。ここから15キロは淀ヶ磯と呼ばれる岩礁の多い海岸線で、部落はない。朝から冷たい雨が時々横殴りに降ってくる荒模様の中、今夜の民宿まで歩くほかはないが、良い具合に東の空には雲の切れ目から日差しも覗いているので頑張る。
(2―足摺岬)

10月30日、薄曇で時雨が落ちる中をひたすら岬を目指す。行く手に何度も海に突き出す崎が見えるが、すぐ又次の崎が現れるの繰り返しで、岬はまだまだ先だと分かる。漸くあと1キロの標示があり、左に入り足摺岬を展望する「天狗の鼻」に出た。時雨がしぶく向こうに灯台が見え、断崖の下の岩礁に波が打ち寄せていたが、海の只中の岩の一つに釣り人が立って糸を投げている。こちら側の先端に立つイワモモの梢でイソヒヨドリがピューツと一声鳴いた。
(3−室手崎)
11月2日、40番・観自在寺の門前町・御荘を出発。昨日から足の肉刺の痛みが酷いが、歩くしかない。

国道で、東京都大田区からの60代の男遍路と暫く話しながら歩いたが、こちらのペースが上がらないので先に行って貰う。長い登坂の先で海岸線に出る。足摺宇和島国定公園の島々が遠望され、昔の修行僧たちが船で目指した観音菩薩の浄土「補陀落」(ふだらく)とはこんなイメージか、と思わせる。断崖の下の内海には真珠母貝養殖の筏が並んでいる。ここから志摩半島に出荷され、核の挿入を経て真珠が生産される由。一息入れた後、今日の難所、柏坂峠に挑まねばならない。
これら以外に遍路道が通過するものだけを挙げれば、太平洋側では室戸岬、叶崎(かのうざき)、瀬戸内海では今治市の松ヶ崎がある。少し寄り道をすれば、他にも四国には景色の良い岬がいくつもある。


