「遍路道のトンネル」

 急勾配な山が、海岸線の近くまで波のように続く四国の自動車ルートにはトンネルが多い。(最長は愛媛県・寒風山トンネル5,432mだが遍路ルート外)遍路ルートでも、国道・県道を行く場合はトンネル経由が避けられない。暗い照明の下での閉塞感と、肩をかすめるように通過する大型車の轟音は歩き遍路にとって地獄のようだ。

1−日和佐トンネル、1,968m) 

阿波最後の薬王寺を打った後、土佐で最初の最御崎寺(ほつみさきじ)までは75キロの長丁場。国道55を歩き出して一時間、道中最初のトンネルに入る。2キロの長さだが歩道の幅に余裕があるのが救い。前方を遍路笠が行くが、性別・年齢は識別不能なので、急いで追いつき声を掛けるには躊躇があった。


2―新伊豆田トンネル、1625m)

弘法大師とは「同行二人」が遍路の建前だが、不信心な私にはその実感はなかった。四万十川を渡って足摺岬に向かう途中、上り坂でトンネルに入った。入ってから既に20分も歩いている。漸く出口の明かりが近づき、もう少しで開放されるとホッとして、意識が朦朧となっていたのだろうか。自分の影が左手壁の前方に動いてゆくのは目に入れていたが、一瞬もう一つの影が後ろからスッと寄ってきた。何故か「あっ、弘法大師が来た。」と感じた。後ろから近づく車のヘッドライトが起こした現象に過ぎなかったのだが、無意識に常に頭にあった「同行二人(どうぎょうににん)」が瞬間的に意識の表層に出てきたのだろう。不信心な私を大師が諌めたのかも知れない。次の札所では「南無大師遍照金剛」の宝号を、いつもより心を籠めて唱えた。

 

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