「いよいよ第一歩を踏み出す」
 昨年、胆石の閉塞による急性膵臓炎を発症したので、今回四国に向かうに先立ち、縁戚の外科医からは胆嚢摘出手術を受け問題の根治をするよう勧められ、長距離遍路の延期を勧告された。一方内科医のホームドクターは、「そのまま出発してもいいでしょう。 発症した場合は四国で入院・手術すればよい。」と言います。

 70歳を迎えた私としては、ここで延期したら永久にチャンスを逸するのではと危惧し、「人里離れた深山で発症したらそれも我が運命」と割り切って出発を決意した。家人は勿論強く反対した。

 なにしろ全行程で1200キロ、東海道を往復するに等しい距離。体力と気力が続くのか、胆石の落下は起こらぬか、等々の心配を抱えて、ともかくも覚悟を決め、10112130、品川から徳島への夜行高速バスに乗り込んだ。

 翌12630、徳島駅から高徳線で坂東駅へ。駅から歩いて10分、一番札所・霊山寺(りょうぜんじ)門前の売店で遍路仕度一式を買い求めた。即ち、数珠・笈擦(おいずり、袖なしの白衣)・金剛杖・菅笠・輪袈裟・納経帖・線香と蝋燭の容器・納め札、―他に頭陀袋があるが、私は小リュックで代用した。これらを安いグレードのもので揃えたが、総計15700円になった。

 そして霊山寺の境内に入った。多少は緊張していたが、予め勉強しておいた手順通りに、無事納経セレモニーを終了して、門外に踏み出した。

 改めて「おい、もう引返せないぞ。覚悟は良いな。」と自らを振るい立たせようとすると、路傍のススキが「爺さん、まあ肩肘張らず、気楽に行こうじゃないか。」と言うように朝風に穂を揺らしていた。

 

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