「朝の遍路道」
(1)30キロ以上歩かねばならぬ日は、宿に早い朝食を頼んで、7時前には出発する。外の冷気が心を引き締める。10月14日、「お四国」最初の修行とも言われる12番・焼山寺(しょうざんじ)の「遍路転がし」に挑む日だ。金剛杖の鈴音は決して大きくはないが、静かな早朝の空気に響いては周りの人家に迷惑だろうと、脇に抱えるようにして歩く。この一帯は野菜畑が多いが、前方に白い面積が広がっている。よく見ると地面の近くの根の部分が薄赤い。蕎麦の花が一面に咲いているのだ。その畑の横から坂道になり、11番・藤井寺に向かう。その境内の裏手から始まる急峻な登り道の序曲である。
(2)早朝の徳島市内を出て国道55号を南に向かう。反対方向は通勤のマイカーと通学の自転車の列、歩道を歩いているのはただ一人。朝空高く薄い雲の縞模様、鰯雲とか鯖雲とか言われる秋らしい光景である。日の出はその雲をだんだらに染めている。今回未だに海を見ていないが、あの下に紀伊水道の太平洋が広がっているのだろう。昨日は五つの寺を廻る長丁場で疲れきった脚だが、今朝またエネルギーを取り戻し、歩調も軽やか。国道から脇道に逸れて18番・恩山寺の小高い山に向かう。
阿波は「発心(ほっしん)の道場」と言われる。その中でも吉野川流域を巡る19番までのルートは、時刻でいえば朝に相当するかも知れない。


